『日本映画 隠れた名作』

本書は、川本三郎筒井清忠による対談集。昭和30年代前後の映画館に日常的にかかっていたプログラムピクチャーを見直そうというもの。昭和30年代は映画が娯楽の王様だった時代。年に1,2本しか作品をつくらない黒澤明小津安二郎のような巨匠とは違う、娯楽に徹しながら作品を量産した監督たちがいた。目次を見ても、知らない監督ばかり。でも当時の日本映画を屋台骨で支えていたのは、そうした監督たちであった。

プログラムピクチャーの見所は、安くあげるためにセットをできるだけ組まずに、ロケを多用しているところ。「事件記者」、「警視庁物語」、「刑事物語」などのシリーズはほとんどがロケで、それが今から見ると貴重な東京の姿を記録することになっているとのこと。場末の深川ドヤ街などが出ているとなると、ストーリーそっちのけでちょっと見たくなるところ。

瀬戸内海の鞆の浦で撮影した千葉泰樹監督の『今宵ひと夜を』(昭和29年)も、今では地元の人もあまり知らない映画とか。でも一番見たいのは、長崎の軍艦島こと、端島で撮影された炭鉱映画、小坂哲人監督の『緑なき島』(昭和23年)。でも、こうしたプログラムピクチャーは、地方にいると、ハリウッド映画よりも見るのは難しそう。いつか見られる日が来ることやら。