雪岱のさし絵

中村嘉人 大衆の心に生きた画家たち 読了。

大衆の心に生きた昭和の画家たち (PHP新書)

大衆の心に生きた昭和の画家たち (PHP新書)

大正末から昭和30年代まで、新聞、雑誌の連載小説は大衆娯楽の花形であった。それらの小説には芸術性が高い挿絵が付けられ、さらに人気を呼んだ。

筆者は雑誌編集者で、季刊誌「さしゑ」の編集人でもあった。そのため、多くの画家と交遊をもった。本書では、筆者が子どもの頃に読んだ小説の挿絵画家から、実際に編集者として交遊した画家まで多くの人物が取り上げられており、近代挿絵の歴史を大きくつかむことができる。

取り上げられている画家の名前を列記すると、小林秀恒、石井鶴三、竹中英太郎岩田準一中川一政小村雪岱木村荘八宮本三郎鈴木信太郎、木下二介、杉本健吉風間完棟方志功、中一弥…

このうち、小村雪岱についての一文を引用。

さし絵で活躍したのは、昭和八年前後のほぼ十年間である。九年三月から十年十二月まで「都新聞」連載の子母沢寛作『突っかけ侍』。同年九月から十年五月まで「読売新聞」連載の邦枝完二作『お伝地獄』。いずれも名品である。

雪岱は昭和十五(一九四〇)年十月、短いが充実した生を終えた。享年五十四歳。

邦枝完二の小説が忘れ去られるときがきても、小村雪岱のさし絵は永遠に残るだろう。

2010年2月号の芸術新潮では小村雪岱が特集され、そのさし絵もかなり紹介されていたと記憶する。そのタイトルは「小村雪岱を知っていますか?」。雪岱のさし絵の評価によるものであろう。