「久留米藩士江戸勤番長屋絵巻」の追加情報

前回、最後に江戸東京博物館の収蔵品検索で、「久留米藩士江戸勤番長屋絵巻」の制作年代が天保11年頃とされていることを記した。そして、以前の図録では明治時代になっていたので、絵巻に関する見解の見直しがあったのかもしてないと付け加えたが、その後、2010年3月に刊行された同博物館の調査報告書『酒井伴四郎日記−影印と翻刻−』に、絵巻が画像付きで紹介されていることに気づいた。その解説は次のようになっている。

久留米藩士 江戸勤番長屋絵巻」(三谷勝波筆、戸田熊次郎序、明治時代)は、江戸勤番士が住居である長屋で、どのような生活をしていたかを具体的に見ることができる貴重な資料である。
この絵巻は、かつて江戸勤番を体験した筑後国久留米藩21万石の有馬家の家臣たちが、明治時代になってから昔日を懐かしみ、同僚であった元御用絵師三谷勝波に依頼して描かせたものである。三谷は狩野派の流れをくむ絵師であり、序文は元目付の戸田熊次郎が記している。
…(下略)…


江戸東京博物館は、依然として明治になってから回想して描かれた絵巻との見解である。小林論文が掲載されたのは2008年3月。江戸東京博物館は、大川市立清力美術館本の存在に気づいているのであろうか。近年、歴史研究に絵画資料が積極的に取り上げられるようになっている。そのこと自体は喜ばしいことであるが、描かれている内容ばかりに目がいき、その前提となるような基礎研究は等閑になっているのではなかろうか。この絵巻などは、美術史家と歴史家の対話の中で研究が深められてもよいように思う。清力美術館本と江戸東京博物館本との対比、これら絵巻制作に関わった勤番武士の履歴、明治期に模本としての江戸東京博物館本を制作したのは誰なのか、などなど。この絵巻には研究する余地が多く残されているように思われる。