創刊号 松山新名物記3

◆湯晒し艾
道後温泉の名物お土産品である、「よしえやしえやは伊吹のさしもぐさ」で知られた艾の歌のお土産といふのは全国で其の類がない、由来四国は艾を用ひて灸点の流行する土地で其の起原はお大師様の教へだと云ふ、道後で生れた一向宗の開祖一遍上人が艾製造の元祖だと伝へられてゐる、道後の艾は年々各地に宣伝せられ今では県外にも随分沢山移出せられ地元附近の消費と合せて年額約五百貫金にして一万円、全く毛色の異つた物である。


◆二名煮
三津の名産二名煮は瀬戸内の小魚鰈(せうぎよかれ)、干賊、蝦、蟹、沙魚(はぜ)、鯛の子、ヒラメ其他のものに海苔を合せて佃煮とし干燥したものでビールの肴や茶菓子として非常に美味で上品のものである、二名煮とは故富岡鉄斎翁の命名したもので今では全国から殖民地までに名を知られ好況時代には年産二十五万円不景気の今でも尚十万円を突破している。


砥部焼
松山地方唯一の陶器である、其の起原は安永四年大洲藩主が加藤三郎兵衛に命じて肥前大村より陶工を招き土地の土によつて焼かしたのに始まる、淡黄枯淡の無焼地で風趣深いものがある。


◆干油揚
干油揚は全国中松山に於てのみ見られる名産である、之れは豆腐を油で揚げたもので調味料としては絶好のもの、明治三十年頃より生れたもので現在外国船航路の汽船、海軍の軍艦等の調味料として使はる々外海外貿易にまで発展してゐる、年中通じて腐敗等の虞は絶対に無いもので他国では見られぬ特色があるものである。


◆柑橘類
伊予蜜柑の名は近来至る處に知られてゐる、栽培の歴史は左程古くは無いが営業者の熱心さが今では押しも押されもせぬ日本一の名声を得るに至つた、松山市を中心とした二郡の山々は冬に成れば蜜柑で赤くなる程である、梨も亦有名なる生産地で其他ビワ、夏蜜柑類を合して全果物の産額四百五十万円に達する勢である。