帯の土産

お土産にしつこくこだわると、
手紙に出てくる帯にしても、
妻の久美から古いものを江戸紫に染め直すようにオーダーが出ていた模様。
江戸紫は江戸時代に流行した色の一つで、
歌舞伎の「助六」が締めている鉢巻きの色としても知られる。
紫は高貴な身分を表す色で、一般庶民には禁色であったが、
8代将軍徳川吉宗の奨励による幕府の呉服師後藤家の働きにより、
江戸紫の色ができ、一般化していく。
この江戸紫の色に染め直すことを久美は望んでいるのである。
それに対して、
義信は古い物を持っていったところ、
江戸紫にならず黒味がかったようになる上に値段も高いと聞いて染め直しを中止している。
そのかわりとして、
外出する別の藩士に頼んで松坂屋で新しい帯を購入してもらっている。
この松坂屋は明和5年に、
名古屋の呉服屋伊藤屋が下谷にあった松坂屋を買収して江戸進出を果たした大店。
寛永寺の参道の賑わいとともに、松坂屋の大きな店構えを描いた歌川広重の浮世絵もある。
義信は染め直しどころか、
この大店で二人の子どものために新しい帯二筋を購入しているのである。
江戸勤番武士のもとには、次々と家族から買い物の依頼が届いていたようである。
三浦家の手紙からは、
家族もろとも江戸の消費社会にどっぷりとつかった武士の姿が見えてくる。