本の虫

中野三敏 江戸文化評判記―雅俗融和の世界 (中公新書) 読了。
とにかくおもしろかった。
伝統文化の雅と新興文化の俗の両面から
江戸時代の捉え方を説いた「巻ノ一 江戸的文化」は無論おもしろかったが、
どちらかというと余談めいた「巻ノ六和本礼賛」の本の虫には噴き出した。
博物館などでは資料につく虫を殺菌するため、
ガスくん蒸をやると聞くが、
中野先生のやり方は、奥さんの目を盗んで
和本をラップして、電子レンジで50秒以内チンすること。
これで確実に虫を殺すことができるそう。
ついでにその虫を食べてみると、結構いけると書いているところが、
学者の好奇心のすごいところ。
その後のある珍本の虫を殺すため、
いつもより長い時間でチンした後の悲劇に爆笑。
最近読んだ本で一番笑ったかも。


それから中野先生が直接会ったことがある
森銑三翁とその周辺の人々のことを書いた以下の部分が印象に残った。


今は昔、新宿大久保のホテル街のど真ん中に、
古ぼけた木造二階建ての無窮会文庫があった。
いつもは階下の暗い部屋で、
生き字引とはこの人のために作られた文字かともいうべき
司書の林さんが、だるまストーブで温めたお茶を、
ふるえる手で出して下さるのをいただきながら書物を見た。
月に一度、三古会と称する談話会が二階の畳敷きの広間で行われ、
森翁はその会主といったところだった。
薩摩侯拝領というばかでかい丸に十の字の紋を
背中に背負うようにつけた夏羽織に、
右手に鉄扇、左手で白髯をしごきながら、
甲高い女のような声で、
山東直砥の話などされる池田文痴庵(通称文チャン)老などの姿が、
今も目に浮かぶ。
森翁が出席された日は全員一同の話がはずみ、
欠席の日はそうでもないことを、
若輩ながら心に感じて、森翁の重みを知ったのである。


中野先生の本、もう少し読んでみたくなって、
早速中野三敏 写楽―江戸人としての実像 (中公新書)を購入。