記憶写真展

東京出張中。夕方までに仕事を無事に終えて、閉館まで1時間を切ってようやく目黒区美術館に到着。目黒駅から坂を下っていって、川沿いの道を歩き公園に入った所に美術館はあった。

同館では現在、記憶写真展が開催中(3月24日まで)。この展覧会で展示されている写真は、プロの写真家ではない市井の人が撮ったもの。歴史系博物館ではそうした写真を取り上げた古写真展がよく開かれているものの、美術館で開催されるのは珍しい。といっても、写真自体は目黒区めぐろ歴史資料館で収集したものらしい。歴史資料館でも過去にこれらの古写真をもとに展覧会が開かれたようで、休憩スペースに置かれた図録は面白そうだったが、既に残部なし。

展示では約200点を、新たに大小のサイズにプリントアウト。これらのプリントを、「ランドマーク」「交通機関」「道」「商店街」「家族」などのテーマに沿って分類・構成し、インスタレーションとして展示している。群で写真を見せていく試みで、それはそれで面白いが、この展覧会の写真を使って、1枚の写真からどれくらいの歴史情報を導き出せるかという、雑誌『東京人』で行われていた試みは、1カ所ぐらいしかなくて残念。

その1カ所の写真とは、上目黒六丁目停留所停留所でバスを待つ人々を捉えたもので、昭和29年の撮影。一番右側にはバス停から一人離れて和服姿の老女。右を向いて何かを見ている。東京人の執筆者大竹昭子氏が、この女性をイジワル婆さん風って書いていたのには笑ってしまった。バス停のすぐ右側には、胸にハンカチーフを入れた背広姿の若い紳士。左側には作業着姿の男性二人。二人ともジャッパーに、今ではあまり見ないニッカボッカを着ている。でも足下に注目すると、一人は地下足袋だが、一人は革靴のようなものを履いている。この足下の違いから、二人は職人であっても師匠と弟子と読み解いている。この頃の日本にはそれぞれの職業別スタイルの違いが顕著なので、写真を見るといろいろと想像がかきたてられる。こうした1枚の写真にこだわる部分がもう何カ所かあってもよかったかも。とはいえ、解説をほとんどつけず、最低限のキャプションで観る人がいろいろ想像をふくらませるようにしているのもいい試みとは思うが。

また、目黒に永く住んだデザイナーの秋岡芳男とそのデザイン事務所KAKが撮影した写真も同時開催として展示。工業製品のレタリングだけが集められたアルバムなどが、ずらりと横並びに展示されていて壮観。シンプルでありながら、どれ一つとっても同じものなく、単純なデザインながらもどれも美しい鉄塔だけを集めたアルバムもあり、どこか今和次郎考現学にも似ていて、こちらも面白かった。