銀座、夜店の古本屋
仲田定之助 明治商売往来 (ちくま学芸文庫) を拾い読みしていたら、
かつて銀座の舗道に夜店が広がっていたという記述を見つけた。
その夜店が出るのは東側ばかりで、
京橋一丁目から尾張町あたりまでで、
売っている物はピンからキリまで種々雑多。
その中には何軒か古本屋もあったらしい。
銀座二丁目の岸田精鐘水本舗の前には、
洋書専門の古本屋も店を出していたらしい。
その夜店は洋書を言っても、
外国の機械器具メーカーの型録や外国雑誌を売っていたが、
ドイツ語が読めない仲田も、
挿入されているカットのアールヌーボー様式の図案に魅力を感じて、
ドイツ雑誌を購入した思い出を記している。
また、尾張町一丁目の現在の松坂屋銀座店の前には、
明治文明開化の文献や、文学の稀覯本が多い夜店があり、
書名と売価を大きく書いた襷がかけて並べられていたという。
この部分を読んでいて、
以前に同じような話しを読んだことがあるような気がして、
本棚をがざごそと探すと、安藤更生 銀座細見 (1977年) (中公文庫)の中にに次の記述があった。
君がもし古本蒐集家なら、
ここにはセエヌのquaiにも劣らぬ程に古本屋が並んでいます。
松坂屋前の山崎程明治に関する文献を蒐めている本屋を
私は東京に聞きません。
私は彼から「若菜集」「一葉舟」「夏草」などの
初版を買ったことがあります。
といえば彼がどの程度の本屋であるか御わかりでしょう。
彼の温順しやかな商売振り、
彼の古書に対する愛好心と知識、
彼は私の尊敬している本屋の一人です。
同じく松坂屋の前に出している水口、
水口といってわからなくても、
太った菊石(あばた)のある和本屋といえば
知っている人が多いでしょう。
彼のところにも、
めったに出ないような珍本がある事があります。
私の友人岡康夫君は、
彼の店から正徳版の『秋の夜の長物語』を買ったことがありました。
夜店といっても、
かなりレベルが高い本を売っていたらしい。
夜店の古本屋が今でもあれば行ってみたい気がする。