宇和島藩の謎の絵巻

黒岩比佐子さんの歴史のかげにグルメあり (文春新書)を読んでいて、
ふと思い出した資料があります。
最初の登場人物、ペリーのところで、
ペリーが伝統的な本膳料理が苦手だったことが記されていますが、
ペリーの軍艦内での食事のことを
ぼやっと考えていたら、
ある絵巻のことを思い出したのです。


それは宇和島伊達文化保存会所蔵の
「外国軍艦内日本人饗宴之図」という絵巻です。
内容はちょんまげ姿の武士が、
外国軍艦を案内されて、いろいろと見てまわるというもの。
写真は江戸東京たてもの園の図録
宇和島藩伊達家』に一部が掲載されています。
この絵巻には外国軍艦の食にまつわる絵として、
次のような絵があります。


・テーブルの上にトレイが置かれ、
 食材のようなものがのっていて、
 外国人の説明を興味深そうに聞く武士。
・大きなゲージが置かれ、
 上段にはたくさんの鶏、下段には山羊のような動物が見える。
・棚に大小さまざまな瓶が並び、外国人が武士に得意げに説明している。
 ワインセラーのようなものであろうか。
・最後はテーブルに食事やワインなどが出された
 饗宴の図。外人二人にたくさんの武士がいるが、
 多くの武士は椅子に座ることもなく、
 テーブルのまわりの地面に正座している様に見える。


当時の軍艦の中をのぞき見するような絵巻ですが、
動物を飼育するゲージ、
たくさんの瓶が置かれたワインセラーなど、
食に関わる部分がしっかり描かれていることが特に印象に残りました。
そして、この絵巻のことを
漠然とペリー来航の時のものと思っていました。


この絵巻は墨一色で描いており、
いろいろなところに塗る色の指示が記されています。
つまりは、宇和島藩のものは何かの原本を写したものと考えられます。
今回ペリーに関わる資料が掲載された図録を
いくつか取り出してみましたが、
同じ絵がなかなか見つかりません。
そして、あきらめかけた頃に、
福山市福山城博物館の図録『開国へのあゆみ』の中に、
ついに見つけました。
資料名は「魯館内部略図並官員所作図」とあります。
この中の大砲を撃とうとしている図が、
宇和島藩の絵巻の一枚と同じ絵であることが分かりました。
ペリーと思っていましたが、少し違って、
やはり開国交渉に来ていたロシア船の艦内図ということになります。
しかし、残念ながら福山城博物館の図録には、
大砲を撃とうとしている図しか図版が掲載されていないので、
本当にそれ以外の図も同じであるのか最終確認はできていません。


この「魯館内部略図並官員所作図」は
福山藩主阿部家の子孫の家に伝わっているそうです。
篤姫では草刈正雄阿部正弘を演じていましたが、
阿部は優柔不断な性格であったものの、政治的には一橋慶喜派だったと言われています。
そして、伊達宗城は言わずと知れた一橋派。
宇和島藩の絵巻の写しは、同じ政治勢力であることを背景に、
宗城が阿部ルートから入手したものである可能性があります。
西洋志向が強かった伊達宗城にふさわしい資料ともいえそうです。