アーネスト・サトウと宇和島藩

黒岩比佐子 歴史のかげにグルメあり (文春新書) 読了。

幕末から明治末期までの半世紀。
西洋化が進み、日本が大きく変わった事件を、
饗応のメニューから読み解こうというたくらみ。
伝統的な本膳料理に不満をいだいたペリー提督から、
肉や魚への欲求が絶てなかった菜食論者の幸徳秋水まで、
12人の有名人が登場します。
気軽に読めて、しかも奥が深い本です。
筆者の目配りの広さは、
巻末の主要参考文献にその一端がうかがえます。


どの人物の話しも面白いのですが、
なかでもアーネスト・サトウ宇和島が登場するだけに、
一段と興味深く読みました。
そして、その後でついつい
アーネスト・サトウ 一外交官の見た明治維新〈上〉 (岩波文庫) を取り出して、
久しぶりに読み返すことになりました。
江戸幕府崩壊間際の慶応2(1866)年の年末、
サトウはイギリス軍艦に乗り宇和島を訪れていますが、
宇和島藩の人々や幕末の宇和島の様子を
短い言葉で生き生きと書き残しています。


サトウが記す宇和島藩主のポートレイトをメモすると、
次のとおり。

宇和島藩9代藩主伊達宗徳
彼は三十二歳、やや中背で、少しかぎ鼻の貴族的な顔をしており、
全般的に見て立派な容姿をしている。


宇和島藩8代藩主伊達宗城
隠居は顔立ちのきつい、鼻の大きな、丈の高い人物で、
年齢は四十九歳。
大名階級の中でも一番の智恵者の一人だと言われていた。

短い文章の中で、
二人のもつ雰囲気をうまく捉えています。
それ以外には、宗城の不用意な発言にあわてる
主席家老の松根老人は如何にも温厚なじいという感じで、
その人柄が伝わりますし、
松根老人の息子で松根内蔵が、
一見二十歳ばかりの紳士然とした人間と記されているのも、
写真で容姿を知っているだけに頷けるところ。

写真は松根内蔵。
サトウは宇和島で酒と踊りの歓待を受けた後に、
松根家に泊まり、内蔵と一緒の部屋で気持ちよく眠っています。
そしてその翌日、
内蔵にはサトウから記念のオペラグラスが贈られたのでした。