森茉莉の「父の帽子」を読んでいると、こんな記述が。


白髭神社の後にあつた不律(幼くして亡くなった茉莉の弟)や、
祖父の墓へ詣る日は、いつもお昼過ぎの明るい頃、川蒸気に乗った。
ドブドブと揺れてゐる川の上を、
ポポポポとあたりを震はせるやうな大きな音を立てて、
蒸気船が近寄つて来た。
大人はやつと入るやうな狭い入口から、急な段々がついていた。
中へ下りると、ブル、ブルと、足の下が震へるやうに鳴ってゐる。
通り路をやつと通つて、母は空いた席を見つけるのだつた。
やがて船は、びつくりするやうな大きな音を立てて、水の上を動き出した。


白髭神社隅田川の川岸にあった神社。
墨田区東向島3丁目5−2にあります。
隅田川に木の白髭橋が架かったのが大正3(1914)年。
まだ橋がなかったせいか、
隅田川を渡るのに、森茉莉は川蒸気に乗せられています。
その記述からは何とも風情ある乗物のように思えます。
古い東京の公共交通機関として路面電車も気になりますが、
この川蒸気も調べると面白うです。