今は出張中に購入した
丹野達弥編の村木与四郎の映画美術

村木与四郎の映画美術―「聞き書き」黒沢映画のデザイン

村木与四郎の映画美術―「聞き書き」黒沢映画のデザイン

を読み進めています。
村木与四郎さんは黒沢明監督映画の美術監督を長年つとめた方だそうです。
以前東京の忘れもの―黒沢映画の美術監督が描いた昭和
を読んだ時に、
映画のためとはいえ、
どうしてここまで緻密な終戦直後の東京のスケッチを
描き残したのかということが気になりましたが、
そのものずばりの答えがこの本には記されていました。


カットのためのネタ拾いに焼け跡を歩き廻ってる(笑)。
そういうロケハン、セット・ハンティングみたいなものは
自発的にやったものです。
松山さん(当時の美術監督)に言われたわけじゃない。
いつどんな建物をつくるか判らないでしょ。
カミサン(村木忍)と二人で写真を撮ったり、
スケッチしたりしながら東京を歩く。
王子や新宿の呑み屋、闇市とかを記録する。
これは仕事もあるけど、
変わってゆく街を残しておきたいって想いもありました。
小物なんかでも、
生活で当たり前に使うものほど消えてゆく。
茶碗でもなんでも。
それで今になって蚊帳ってどんなものだ?
とか七輪買いに行ったけど売ってないや、
どうしよう、なんと騒いでいる(笑)。
新宿だと焼けた中村屋とか、
屋根だけになっちゃった新宿駅とか。
焼け残った戦前の東京がまだ息づいていた。


この聞き書きから、
東京のスケッチが単なる映画の手段としてだけでなく、
「変わってゆく街を残しておきたい」とあるように、
意識して描き残されたものであることが分かります。
また、昨日の宮脇さんと同様に、
ここにも生活で当たり前に使っていた小物まで描きつくそうという
細部へのこだわりも見えます。
当時の時代の空気や暮らしの細部まで見えてくるもの、
それこそ第一級の歴史資料といえそうです