流される死体

中野三敏 和本の海へ 豊饒の江戸文化 (角川選書) を読んでいると、
異扱要覧という資料が紹介されていた。
タイトルからはどういう本か分かりにくいが、
江戸の武家屋敷の辻々に設けられていた
番所の番人心得を刷物にしたもの。
自分の持ち場地域で、
何か起きた時にどのように対処するか
ということが事細かに記されている。
項目の最初だけ少しあげると、
捨子、迷ひ子、倒れ者、変死人、病死人、首縊人…
番所の心得だけに物騒な項目が多く見られる。


たくさんの項目の中には、
水死者の取り扱いを決めた項目もある。
そこには、
汐入りの掘割での水死体は突き流しても構わない、
と記されている。
ほんと江戸は死体だらけ、
と思った時に、この話しどこかで聞いたような気が。
先日読み終えた氏家幹人 大江戸死体考―人斬り浅右衛門の時代 (平凡社新書 (016)) をめくってみると、
まさしく異扱要覧からとして、同じことが解説されていた。
時代小説の作者などにとっては、もってこいの資料だと思うが、
利用されているのかどうか、と中野氏は記しているが、
少なくとも歴史家には利用されていたことになる。
ただし、中野氏の本には、
異扱要覧のいくつかの項目が翻刻されており、
この興味深い資料のことをより詳しく知ることができる。