錦絵の購買層

大久保純一 浮世絵を読了。

カラー版 浮世絵 (岩波新書)

カラー版 浮世絵 (岩波新書)


浮世絵を鑑賞するための入門書として書かれたもの。
最初の方の浮世絵の歴史、
美人画、名所絵など、錦絵のジャンル別解説は、
どの入門書にも記されていますが、
第四章の錦絵はいかにつくられ、売られたかについては、
これまであまり取り上げられなかったのではないでしょうか。


大久保氏によると、
錦絵の値段はその大きさや時代により若干の変化はあるが、
幕末の三河吉田藩儒の旅日記に24〜30文強と記されているとのこと。
現在の貨幣価値でせいぜい数百円程度。
だからこそ当時は、
江戸に住む幅広い階層が購入していたのでしょう。
隠居したお殿様から江戸の下層民までが買っていたもの、
そんな品が錦絵だったようです。
また、地方に住む人へのお土産としても使われたようです。
まわりに大名藩邸がたくさんある芝神明前は大繁華街で、
この通りの両側に錦絵や草双紙を扱う絵草紙屋軒を連ねていました。
ここには江戸の勤番武士がたくさん訪れて、
帰郷するときのお土産として
廉価な錦絵をせっせと買っていたことでしょう。
名古屋藩士高力猿猴庵が江戸滞在の経験を描いた
文政11(1828)年の『江戸循覧記』には、
絵草紙屋の店先で草双紙を食い入るように読む
勤番武士と思われる人物が描かれていますが、
なんだか約180年前の自分を見ているようで、
微笑ましく思えます。